政治ニュースで見る「供託金没収」
政治ニュースや選挙の開票速報で「○○候補、供託金没収」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。
2024年の東京都知事選挙では、過去最多の56人が立候補しました。しかし、その結果はどうだったでしょうか。じつに53人が供託金(300万円)を没収されたことが大きな話題となりました。
「自分が出馬するとき、本当に大丈夫だろうか?」 「具体的に何票取ればお金が戻ってくるの?」
今回は、立候補手続きを専門とする行政書士の視点から、供託金が戻ってくるライン(供託物没収点)の具体的な計算方法と、実はあまり知られていない「没収ラインを下回ったときの二重損失リスク」について解説します。
そもそも「供託金」とは?選挙の種類別・金額一覧
供託金(きょうたくきん)とは、立候補する際に法務局へ事前に預けなければならないお金のことです(公職選挙法第92条)。金銭のほか国債証券等でも納付できますが、実務上は金銭納付が一般的です。
この制度の目的は、いわゆる「売名目的」「無責任な立候補」を抑制し、真剣に当選を目指す候補者のみが出馬できる環境を整えることにあります。
金額は選挙の種類によって法律で定められています。
| 選挙の種類 | 供託金額 |
|---|---|
| 衆議院小選挙区選出議員 | 300万円 |
| 参議院選挙区選出議員 | 300万円 |
| 都道府県知事 | 300万円 |
| 政令指定都市の市長 | 240万円 |
| 一般市・区の市長(区長) | 100万円 |
| 都道府県議会議員 | 60万円 |
| 指定都市の市議会議員 | 50万円 |
| 一般市・区の議会議員 | 30万円 |
| 町村長 | 50万円 |
| 町村議会議員 | 15万円 |
衆・参の比例代表は名簿届出政党等が供託するため、個人候補の立候補手続とは制度が異なります。本記事では選挙区・首長・地方議会の個人立候補を対象として解説します。
地方議会の議員選挙であれば15〜30万円と比較的少額ですが、知事・国政選挙では300万円というまとまった資金が必要になります。
供託金が戻るライン「供託物没収点」の計算方法と具体例
「供託物没収点」とは、この票数を1票でも下回ると供託金が全額没収される基準票数のことです。
没収を回避するための計算式は、「首長選挙(知事・市長等)」と「議員選挙」で異なります。もっとも身近な地方選挙を例に、具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
パターンA|市長選・区長選など「首長選挙」の場合
首長選挙の没収ラインは、一律で「有効投票総数の10分の1(10%)」です(公職選挙法第93条第1項第4号)。
【計算例】 ある市の市長選挙で、有効投票の合計が 50,000票 だった場合:
供託物没収点 = 50,000票 × 1/10 = 5,000票
この選挙で得票数が 4,999票以下 だった場合、供託金100万円は全額没収され、市(自治体)の財産となります。
パターンB|市議・区議会議員選挙など「議員選挙」の場合
議員選挙は定数(当選できる人数)が複数あるため、計算式が変わります(公職選挙法第93条第1項第3号)。
供託物没収点 =(有効投票総数 ÷ 議員定数)× 1/10
【計算例】 定数 30人 の市議会議員選挙で、有効投票の合計が 60,000票 だった場合:
(60,000票 ÷ 30)× 1/10 = 200票
この場合、200票以上を獲得できれば、たとえ落選したとしても供託金30万円は全額戻ってきます。
衆議院小選挙区の場合
衆議院小選挙区の場合、没収点の計算式は地方の首長選挙と同じく「有効投票総数の10分の1」です(公職選挙法第93条第1項第1号)。
ただし過去の国政選挙では当選ラインが数万票に達する選挙区も多く、没収点の絶対数もおのずと高くなります。なお比例代表については計算方法が異なるため、本記事では割愛します。
【重要】供託金没収の「もう一つの落とし穴」
実は、供託金が没収されるラインを下回った場合、供託金が返ってこないこと以上の大打撃を受けるルールが存在します。
それが、「選挙公営(公費負担)の権利がすべて消滅する」という落とし穴です。
「選挙公営」とはなにか
現代の選挙では、資金力のない候補者でも立候補しやすいよう、選挙運動にかかる費用の一部を国や自治体が肩代わりする「選挙公営」という制度があります(公職選挙法第141条〜第143条など。地方選挙の場合は各自治体の選挙公営条例も根拠となります)。
公費負担の対象となる主な費目は以下のとおりです。
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 選挙カーのレンタル代 | 上限額の範囲内で実質無償 |
| ガソリン代 | 走行距離に応じて支給 |
| 運転手の手当て | 日当が公費負担 |
| 選挙ポスターの印刷代 | 掲示板枚数分 |
| 選挙運動用ビラの印刷代 | 種類・枚数の上限あり |
これらは上限額の範囲内であれば、候補者の実費負担がほぼゼロになります。
2020年(令和2年)の公職選挙法改正により、それまで対象外とされていた町村長選挙・町村議会議員選挙でも、選挙カー・ポスター・ビラに係る公費負担制度が導入されました。
現在はほぼすべての町村が条例で選挙公営を実施しています。ただし地方選挙の選挙公営は各自治体の条例に基づく制度であるため、具体的な上限額や手続きは立候補予定地の選挙管理委員会にご確認ください。
供託物没収点を下回ると、公費が「全額請求」に転じる
問題は、得票数が供託物没収点に1票でも届かなかった場合です。
このとき、選挙公営制度の適用資格が失われ、選挙期間中に発生した上記のすべての費用が候補者への全額請求に切り替わります。
知事選や市長選などで没収点を下回ると、没収された供託金(最大300万円)とは別に、数十万円〜数百万円規模の選挙費用の請求書が自分に回ってくることになります。これが「供託金没収」の本当の怖さです。
① 供託金の全額没収(選挙の種類に応じて15万円〜300万円)
② 選挙公営費用の全額自己負担(選挙の規模によっては数十万〜数百万円規模)
「手続き」の失敗が得票数を直撃する
供託物没収点は、決して「当選ライン」ではありません。事前のリサーチと準備をしっかり行えば、十分にクリアできるハードルです。
しかし、立候補の手続きに不備があり、告示日の朝に書類の修正でバタバタしてしまっては、肝心の選挙運動(票集め)に集中できなくなります。スタートダッシュの遅れは、そのまま得票数に直結します。
立候補手続きで特に注意が必要な主なポイントは以下のとおりです。
- 法務局での供託手続き(窓口が限られており、時間を要する)
- 選挙管理委員会への届出書類(種類が多く、記載漏れが起きやすい)
- 事前審査への対応(告示日前に選管へ書類確認を取る機会。指摘事項は速やかな修正が必要)
- 出納責任者の選任・届出(告示日より前に完了が必要)
- 選挙運動員・事務員に関する各種届出
これらは一連の手続きであり、一つのミスが連鎖的な不備につながるリスクがあります。
当事務所の立候補手続代理について
当事務所(EVE法務事務所)では、立候補に関する手続きをワンストップで代理対応しています。
主な代理手続内容:
- 法務局への供託手続きのサポート
- 選挙管理委員会への届出書類の作成・点検
- 事前審査への対応(告示日前の選管確認)
- 出納責任者選任・選挙運動に関する法的アドバイス
- 選挙公営(公費負担)申請書類の代理作成
「手続きの不安をなくして、1分でも長く有権者へのアピールに時間を使いたい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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